猫はいつから日本文学に登場したのか。平安貴族の愛玩動物から、近代作家の伴侶、そして主人公にまで。日本人と猫の関係を、文学という記録の側から辿ります。
日本文学に登場する最古級の飼い猫の記述は、紫式部『源氏物語』第34帖「若菜上」。光源氏の正妻・女三宮が飼っていた「唐猫(からねこ)」が綱を引いて御簾を巻き上げ、柏木が女三宮の姿を垣間見るという、物語の重要な転換点に猫が登場します。
平安期の貴族にとって猫は中国渡来の希少な愛玩動物であり、清少納言『枕草子』にも猫が「上にさぶらう御猫」として位階を持つ描写があります。
明治38年(1905年)、雑誌『ホトトギス』に連載開始。名もなき猫の視点から、明治知識人の世相を風刺した日本近代文学の里程標。
漱石自身が縁あって飼い始めた野良猫が下敷きとなっており、漱石邸の「猫の墓」は現在も新宿区早稲田の漱石公園に残されています。
昭和11年(1936年)。三角関係の中心に置かれるのは、雌猫リリー。谷崎自身が大の愛猫家で、戦時中の疎開先にまで猫を連れ歩いた逸話が残っています。
昭和32年(1957年)、愛猫ノラを失った悲嘆を綴った随筆連作。「猫を失う」という題材で、文学が成立しうることを証明した古典的作品。