「ニャーオ」という鳴き声は、世界中の作曲家を惹きつけてきました。19世紀イタリア・オペラから、フランス近代歌曲、ロシア・アヴァンギャルド、そして昭和の歌謡曲まで。音楽に表現された猫の系譜を辿ります。
クラシック音楽でもっとも有名な「猫」の作品が、ロッシーニ作と伝えられる「猫の二重唱(Duetto buffo di due gatti)」。歌詞は終始「ミャオ(Miao)」のみで、二人のソプラノが恋猫さながらの掛け合いを繰り広げる滑稽な小品です。
実はロッシーニ自身の作曲ではなく、彼のオペラ『オテロ』の旋律を素材として、英国の音楽家ロバート・ラケット(あるいはG.バーソルディ)が編纂したものとされています。それでもオペラ歌手にとっては定番のアンコール曲となり、現在も世界中で歌われています。
フランスの作曲家ガブリエル・フォーレ(1845-1924)は、ボードレールの詩「猫(Le Chat)」に着想を得たとされる歌曲を残しています。同時代では、シャブリエの歌曲集『動物詩』にも猫が登場し、フランス近代歌曲は猫を「気まぐれと官能」の象徴として愛してきました。
ロシアの作曲家イーゴリ・ストラヴィンスキー(1882-1971)は、ロシア民謡の童謡を素材にした『猫の子守唄(Berceuses du chat)』をコントラルトと3本のクラリネットのために作曲。素朴な民謡の旋律と前衛的な響きが融合した、室内楽の小宇宙です。
モーリス・ラヴェルのオペラ『子供と魔法(L'enfant et les sortilèges)』には、雄猫と雌猫が屋根の上で「ニャー、ミャオ」と鳴き交わす二重唱が登場します。台本はコレットによるもので、ロッシーニのパロディとも言われる名場面です。
昭和44年(1969年)、当時6歳の皆川おさむが歌った「黒ネコのタンゴ」は、原曲がイタリアの童謡コンクール「ゼッキーノ・ドーロ」で発表された "Volevo un gatto nero"。日本語版が日本コロムビアからリリースされ、年間レコード売上260万枚を超える大ヒットとなりました。
坂本龍一(1952-2023)は生涯にわたり多数の猫と暮らした愛猫家で、自身のスタジオ「KAB America」にも猫がいた逸話を残しています。アルバム『async』(2017)の制作環境にも愛猫の存在が記録されています。
また矢野顕子は『PRESTO』『ようこそようこそ』などで猫をモチーフにした楽曲を発表しており、日本のシンガーソングライターと猫の親和性は高いものがあります。
「猫」は別れ・喪失・自由のメタファーとして、令和のJ-POPでも歌い継がれています。
執筆: 編集部 / 監修者調整中