日本の現代写真史において、猫は単なる被写体を超えて、撮影者自身の眼差しや家族観を映し出す鏡となってきました。岩合光昭の世界の猫から、深瀬昌久の私的な猫まで。猫を撮る写真家たちの仕事を辿ります。
動物写真家・岩合光昭(1950年生まれ)は、もともと父・岩合徳光に連れられて野生動物を撮ってきた写真家ですが、1990年代以降、世界各地の街角で生きる猫を撮影するライフワークを確立しました。代表作『ネコの島』『日本ネコ歩き』『岩合光昭の世界ネコ歩き』はNHK BSプレミアムで長期シリーズ化され、2015年・2017年には劇場版映画も公開されています。
岩合の手法は「目線を下げる」こと。地面に伏せて猫の視点から世界を捉え、餌付けやおびき出しを避ける「待つ撮影」を基本とします。これは野生動物撮影で培った倫理を、猫にも適用したものです。
深瀬昌久(1934-2012)は『鴉』『家族』で知られる戦後日本写真の重要作家。妻・洋子の連れ子だった愛猫サスケと、後にその後継として迎えた子猫を撮った写真集『サスケ』『愛しのサスケ』『猫だけ』は、家族喪失の喪の作業として撮られた私的な記録でもありました。
ホンマタカシ(1962年生まれ)は『東京郊外』『New Waves』で現代日本写真を牽引してきた写真家。猫を主題化した作品集はないものの、ニュードキュメンタリーの文脈で郊外の路地裏に佇む猫を撮ってきました。「観察者として撮る」スタンスは、岩合の「同行者として撮る」姿勢と対照的で、現代写真における猫の位置づけの幅を示します。
星野道夫(1952-1996)はアラスカの自然と先住民を撮り続けた写真家で、猫を主題にした作品はほとんど残していません。しかし著書『旅をする木』『長い旅の途上』には、ヒグマやムースを撮るときに「動物の側に立つ」感覚が繰り返し記され、これは岩合が猫に向ける視線と通底します。星野が猫を撮らなかったこと自体が、動物写真の倫理を考える上で示唆的です。
猫写真には、被写体の福祉に対する配慮が不可欠です。プロアマ問わず広く共有されつつある原則として、次の三点が挙げられます。
岩合光昭は著書のなかで「猫を撮るとは、猫の生活に立ち入らせてもらうこと」と繰り返し述べています。撮影者の側に求められるのは、技術以上に「待つ」姿勢と、地域社会との関係への想像力です。
執筆: 編集部 / 監修者調整中