CKDが進行した猫の最大の悩みのひとつが、食欲不振です。栄養が摂れなければ筋肉が落ち、体力が落ち、QOLが落ちる──。薬剤・食事工夫・強制給餌の是非を整理し、連載最終回として「最後まで食べる力を支える」視点をお届けします。
CKDの猫の食欲不振には複数の要因が重なります。尿毒素の蓄積による吐き気、胃酸過多、口腔内の潰瘍やアンモニア臭、貧血、低カリウム血症、脱水。さらに、療法食への味の不適応、ストレス、便秘などが加わることも。 原因を一つに絞らず、複合的に対処する姿勢が大切です。「食べないから療法食をやめる」だけでは解決しないことが多くあります。
ミルタザピンは、もともとヒトの抗うつ薬ですが、猫では食欲増進・制吐作用が強く現れることから、CKDの食欲不振治療に広く使われています。米国では経皮塗布タイプ(Mirataz)が承認され、耳介に塗るだけで投与可能なため、内服困難な猫に有用です。 Quimby らの研究では、ミルタザピンによる体重増加と食欲改善が有意に確認されています。眠気・興奮・血圧変動などの副作用もあるため、必ず獣医師の処方下で使用します。
ガバペンチンは抗てんかん薬・鎮痛薬ですが、不安軽減作用もあり、ストレスで食欲が落ちている猫に処方されることがあります。来院前のストレス緩和にも使われ、結果として食欲改善に寄与します。 制吐薬としてはマロピタント(セレニア)、オンダンセトロンが代表的で、嘔気・嘔吐を抑えて食欲を下支えします。胃酸抑制薬(ファモチジン、オメプラゾール)との併用も一般的です。
薬剤と並行して、食事側の工夫も重要です。温める(体温程度まで加温して香りを立てる)、形状を変える(ドライ→ウェット、ペースト状)、少量頻回(1日4〜6回に分ける)、食器を変える(ヒゲが当たらない浅い皿)、静かな場所で給餌(多頭飼育では分離)。 また、療法食を絶対視せず、「食べることが優先」と判断する場面もあります。複数ブランドの療法食をローテーションすると、嗜好疲労を避けられることがあります。
シリンジでの強制給餌は、短期間(数日)の橋渡しとしては有効な場合がありますが、長期化すると食事への嫌悪を強めてしまうリスクがあります。猫が抵抗するなら、獣医師と相談のうえ食道チューブ(食道ろう)や胃ろうチューブの設置を検討する方が、結果的に猫の負担が小さいことがあります。 24〜48時間以上絶食が続くと、猫は肝リピドーシス(脂肪肝)のリスクが急速に高まります。これはCKD以上に致命的になり得るため、「食べない」状態は緊急性のある問題として対応してください。AIM新薬(第1回)が実用化されれば、こうした末期局面を迎える前に介入できる未来が見えてきます。
食欲不振は緊急性のあるサインです。薬剤の使用・チューブ設置の検討・強制給餌の判断は、必ずかかりつけの動物病院でご相談ください。
全12回の腎臓病連載をお読みいただきありがとうございました。AIM新薬の実用化は、ここで紹介してきた治療の景色を大きく変える可能性があります。第3回ねこのフォーラム(2026年6-7月計画)では、Dr. Elliott・望月学教授をお迎えし、最新動向をお届けする予定です。