「クレアチニンは正常範囲なのに、SDMAが少し高い」──近年の血液検査で、こんな結果に出会う飼い主が増えています。SDMA(対称性ジメチルアルギニン)は、慢性腎臓病をより早く捉えるための新しい指標。その仕組みと、注意すべき限界を整理します。
SDMA(Symmetric Dimethylarginine、対称性ジメチルアルギニン)は、体内のすべての細胞でタンパク質が分解される過程で生成されるアミノ酸由来の物質です。生成された後はほぼ100%腎臓の糸球体から濾過されて尿中に排泄されるため、腎機能が落ちると血中に蓄積します。 この特性から、SDMAは糸球体濾過量(GFR)の代用指標として注目されてきました。基準値は一般に14 µg/dL以下とされ、これを超えると腎機能低下が疑われます。
クレアチニンは長年使われてきた指標ですが、二つの弱点があります。一つは、腎機能が約75%失われるまで上昇しないこと。もう一つは、筋肉量に強く影響されること(痩せた高齢猫では「正常」に見えてしまう)。 一方SDMAは、腎機能の約40%喪失で上昇し始めることが報告されており、また筋肉量の影響をほとんど受けません。Hall らの2014年の研究では、CKDの診断がクレアチニンより平均17か月早まる可能性が示されました。これが「早期発見の鍵」と呼ばれる理由です。
SDMAを動物臨床に持ち込んだのは、米国の動物検査大手IDEXX社です。2015年に同社の血液検査パネルに標準搭載され、現在は日本国内のほとんどの動物病院でも追加検査として依頼できます。 普及の早さの裏には、検査費用が比較的低く(数千円程度)、既存の血液採取で同時に測定できるという実務的な利点があります。シニア猫の年1〜2回の健康診断にSDMAを組み込む病院も増えています。
SDMAも万能ではありません。脱水・甲状腺機能亢進症・高齢に伴う変動、検査ロット間のばらつきなど、解釈には注意が必要です。1回だけの上昇で確定診断はせず、2〜4週間後の再検査でトレンドを見るのが原則です。 また、SDMAが高値でクレアチニンが正常でも、必ずしも治療開始が必要とは限りません。尿比重・UPC・血圧・症状を総合し、IRISステージ1の早期介入として食事療法や生活管理を始めるかどうかを、かかりつけ獣医師と相談することが大切です。
SDMAの数値解釈は、他の検査値や猫の状態と総合して判断する必要があります。気になる結果が出た場合は、必ずかかりつけの動物病院でご相談ください。