「リンが少し高いですね」と言われたら、その奥に何が起きているのか──。線維芽細胞増殖因子23(FGF23)は、リン代謝の中心にあり、CKDの進行を予測する新しいマーカーとして注目されています。研究レベルから臨床応用への道のりを紹介します。
FGF23(Fibroblast Growth Factor 23、線維芽細胞増殖因子23)は、骨の細胞(主に骨細胞・骨芽細胞)から分泌されるホルモンです。腎臓に作用して、リンの再吸収を抑え、活性型ビタミンDの産生を抑える働きがあります。 ヒトの慢性腎臓病ではすでに重要なマーカーとして確立されており、近年、猫のCKDでも研究が急速に進んでいます。
腎機能が低下すると、リンの排泄が滞ります。すると体は代償的にFGF23の分泌を増やしてリン排泄を促そうとします。しかしCKDが進行するとこの代償も追いつかなくなり、血中リン濃度が上昇。 高リン血症は腎間質の石灰化・線維化を加速させ、CKDをさらに悪化させます。これが「リン-FGF23-CKD進行」の悪循環です。第4回で触れた療法食の核がリン制限である理由は、この悪循環を断ち切るためにあります。
Geddesらの研究では、CKDの猫においてFGF23の上昇は血中リン上昇よりも早く起こり、CKDの進行を予測することが示されました。さらに、IRISステージ2の段階でFGF23が高い猫は、低い猫に比べて1年以内のステージ進行リスクが有意に高いことが報告されています。 クレアチニン・SDMAが「現在の腎機能」を示すのに対し、FGF23は「これからどう進むか」を予測する指標と位置づけられます。
課題は測定の手軽さです。FGF23の測定は研究室レベルでは確立しているものの、日本国内の一般動物病院ではまだルーチン検査になっていません。専門センターや大学病院で外注検査として実施されるケースが増えつつある段階です。 今後、簡易測定キットや院内測定機器が普及すれば、SDMAと並ぶ標準的なマーカーになる可能性があります。第3回ねこのフォーラム(2026年6-7月計画)では、こうした最新指標の使い方も議論される予定です。
FGF23は研究段階から臨床応用への過渡期にあります。検査の可否や解釈は、必ずかかりつけの動物病院でご相談ください。