健康診断の結果票に並ぶ「ステージ2」「サブステージ」という言葉。国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)が定めるこの分類は、猫の腎臓病をどう捉え、どう治療を組み立てるかの世界標準です。数値の背景にある考え方を、飼い主の視点で読み解きます。
IRIS(International Renal Interest Society、国際獣医腎臓病研究グループ)は、犬猫の慢性腎臓病(CKD)の診断・分類・治療について世界共通の指標を作るため、1998年に欧米の腎臓専門の獣医師たちによって設立されました。第1回連載で紹介したロンドン大学王立獣医大学(RVC)のDr. ジョナサン・エリオットも創設メンバーの一人です。 ガイドラインは数年おきに改訂されており、現在は2019年版が世界中の動物病院で参照されています。
IRISは、CKDをステージ1〜4の4段階に分類します。基本となる指標は、絶食状態で測定したクレアチニン値、そして近年はSDMA(対称性ジメチルアルギニン、第3回で詳述)を併用します。脱水を補正したうえで、最低2回の測定で安定していることを確認してからステージを決めるのが原則です。
| ステージ1 | クレアチニン < 1.6 mg/dL / 腎機能低下の何らかの兆候あり(尿濃縮力低下・タンパク尿・画像所見など) |
|---|---|
| ステージ2 | クレアチニン 1.6〜2.8 mg/dL / 軽度の腎機能低下。臨床症状が乏しいことも多い |
| ステージ3 | クレアチニン 2.9〜5.0 mg/dL / 中等度。多飲多尿・体重減少などが現れ始める |
| ステージ4 | クレアチニン > 5.0 mg/dL / 重度。尿毒症のリスクが高まる |
ステージはあくまで「腎機能の段階」を示すもので、治療方針を決めるにはさらに二つの軸が加わります。一つがUPC(尿タンパク/クレアチニン比)。0.2未満で正常、0.2〜0.4で境界、0.4以上で蛋白尿と判定し、糸球体障害の進行度を推定します。 もう一つが収縮期血圧。160 mmHg以上で高血圧と判定され、網膜剥離など標的臓器への合併症リスクを評価します。同じステージ2でも、蛋白尿があり血圧も高い猫と、いずれも正常な猫では治療の組み立てが大きく変わります。
2019年版の改訂で特に注目されたのは、SDMAの正式な組み込みと早期ステージへの対応強化です。クレアチニンは腎機能が約75%失われるまで上昇しないとされる一方、SDMAは40%程度の喪失で上昇し始めることが報告されています。 改訂では、SDMAを参考値として併用しながら、ステージ1や2の段階でも食事療法や血圧管理に踏み込む姿勢が明確化されました。「数値が高くなってから動く」のではなく、「兆候を捉えた段階で生活設計を変える」という思想への転換です。
ステージ1〜2では、療法食の導入、十分な飲水、定期的なモニタリング(3〜6か月ごと)が基本となります。蛋白尿があればACE阻害薬やテルミサルタン、高血圧があればアムロジピンなどが処方されることがあります。 ステージ3に入ると、リン制限の徹底、嘔吐抑制薬、貧血対策、必要に応じて皮下点滴が選択肢に入ります。ステージ4では、QOL(生活の質)の維持と看取りの準備が並行して語られる段階です。具体的な薬剤・食事は、必ずかかりつけの動物病院でご相談ください。
この記事は一般的な解説です。愛猫の数値の解釈や治療方針は、必ずかかりつけの動物病院でご相談ください。