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SERIES / 腎臓病連載 第11回 / 全12回 / 監修:【監修者調整中】

猫の腎移植──海外と日本の現在地

慢性腎臓病が進行した猫に対し、米国の一部大学病院では腎移植が行われています。一方、日本では制度的・倫理的な議論が続き、実施例はほぼありません。この差はどこから生まれるのか、何が論点なのかを整理します。

この記事の目次
  • 1. 米国における猫の腎移植
  • 2. 手技と治療成績
  • 3. 日本における現状
  • 4. 倫理的論点──ドナー猫をめぐる議論

1. 米国における猫の腎移植

米国では1980年代後半から猫の腎移植が試みられ、現在はカリフォルニア大学デービス校(UC Davis)、ペンシルベニア大学、ウィスコンシン大学など複数の大学病院で実施されています。Schmiedtらによる長期追跡研究では、これまでに数百例の臨床経験が蓄積されています。 対象は、内科的治療では維持が難しいIRISステージ3後期〜4の比較的若い猫で、心疾患・腫瘍・感染症などの合併がない症例に限られます。

2. 手技と治療成績

手技はヒトの腎移植に準じます。ドナーから腎臓を1つ摘出し、レシピエント(CKDの猫)の腹部血管に接続。免疫抑制剤(シクロスポリン、プレドニゾロン等)を生涯にわたって投与します。 成績は施設によって幅がありますが、Schmiedtらの報告では1年生存率は概ね60〜70%、3年生存率は40〜50%程度とされています。拒絶反応・感染症・血栓症が主要な合併症で、内科治療と比較して必ず良いとは言い切れないのが現実です。

3. 日本における現状

日本では、猫の腎移植を定期的に実施している施設はほぼありません。理由は複数あります。第一に、後述するドナー猫の取り扱いをめぐる倫理的な合意形成が進んでいないこと。第二に、保険制度や費用負担の問題(米国でも初年度100〜200万円規模)。第三に、専門の外科チーム・免疫抑制管理体制を整えるハードルが高いことです。 一部の大学病院で研究的に検討された経緯はあるものの、現時点では標準的な選択肢ではないと理解しておくのが正確です。

4. 倫理的論点──ドナー猫をめぐる議論

最大の論点はドナー猫の扱いです。米国の多くのプログラムでは、シェルター等から提供されたドナー猫の腎臓1つを使用し、引き換えにレシピエントの飼い主がそのドナー猫を生涯にわたって引き取ることが義務づけられます。 この仕組みは「ドナーにも家族を与える」という意味で考えられたものですが、「猫が同意できない医療行為に身体を提供させる是非」「シェルター猫の扱いとして適切か」など、動物福祉の観点から論争が続いています。日本で導入を議論する際にも、この論点は避けて通れません。AIM新薬(第1回)の実用化が進めば、こうした侵襲的選択肢に頼らない未来が見えてくる可能性があります。

動物病院に相談を

本記事は概況の紹介です。日本での腎移植は標準的な選択肢ではなく、内科的治療と緩和ケアが中心となります。詳細はかかりつけの動物病院でご相談ください。

出典

  1. Schmiedt CW, Holzman G, Schwarz T, McAnulty JF. "Survival, complications, and analysis of risk factors after renal transplantation in cats." Vet Surg. 2008;37(7):683-95.
  2. Aronson LR. "Renal transplantation in cats: animal model and clinical experience." Vet Clin North Am Small Anim Pract. 2016;46(3):573-85.
  3. UC Davis Veterinary Medical Teaching Hospital. "Feline Renal Transplant Program." vetmed.ucdavis.edu